今回は、2サイクルエンジンオイルのグレード(FB、FC、FD)のお話です。
エンジンオイルに何を求めるのか?
2サイクルエンジンの混合燃料を作る場合「混合するときに濃い目にした方がいいですか?」と聞かれたり、新品機には「50:1用オイルでも40:1くらいで混合する」と言う話を聞くことがあります。
純正エンジンオイルであれば、濃い目に混合する必要は全くないのですが、機械が焼き付き等の潤滑不良によるトラブルを起こさないように配慮した結果、このような話が出てくるのではないかと考えられます。確かにユーザーからすれば、高価な機械を買ったのにすぐに壊れたのではたまったものではありません。
潤滑不良によるトラブルを避けるために、混合用2サイクルエンジンオイルを選ぶことになった場合、FB、FC、FDのどのグレードがユーザーの要求に合っているのでしょうか?
答えは「使ってみないとわからない」です。
また、STIHL のカタログを見て「HPスーパーがFDグレードなのに、それよりも潤滑性能が高く『最高の潤滑性能』と謳っているHPウルトラがFBグレードなのはなぜ?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際にそのような質問を受けることがよくあります。
2サイクルエンジンオイルグレードの誤解
ここまで読んで「えっ!FBよりFCの方が高性能で、FDはさらに高性能なのではないの?」と思った方はいませんか?詳細はここでは省きますが、FB、FC、FDの位置づけは、大まかに言うと以下のようなイメージです。
・FB:ある程度以上の潤滑性能がある。現在のベースグレード(基準)。
・FC:FBに「煙が見えにくい」と言う機能が付いたもの。
・FD:FBに「煙が見えにくい」と「カーボンができにくい」と言う機能が付いたもの。
グレードが進むにつれて多機能にはなりますが、潤滑に関して高性能かどうかは分かりません。なぜかというと、JASOの規格ではFBもFCもFDも潤滑性能の基準値が同じ。「FC、FDだからFBより潤滑性能も高性能!」とは謳っていないのです。
エンジンオイルの購入目的が「煙が見えにくいオイルが欲しい」、「カーボンができにくいオイルが欲しい」と言うことであればFC、FDを選択する必要があります。
しかし、潤滑性能の高いエンジンオイルが欲しいとなるとこのグレードの違いでは判断できず、つまり「使ってみないとわからない」となるのです。
排気煙と排気ガス規制は似て非なるもの
例えばHPウルトラは潤滑性能が高く、生分解性でカーボンも付きにくいエンジンオイルです。
残念ながら煙は普通に見えるため、グレードはFBにしかなりません。
しかし、生分解性という点で環境に配慮したエンジンオイルとも言えます。
「FCは『Low smokeとかスモークレス』って書いてあるから、排ガス少ないよね?」
これも誤解です。
煙は見えなくしていますが、エンジンを使っている以上、排ガスは絶対出ますし減りません。減っているように見えるのは、煙が少ないからです。
この煙を見えなくするための主成分(ポリブデン)が、STIHL 製エンジンには合わないのです。
HPウルトラが『最高の潤滑性能』と謳っているのにFBグレードなのはこのためです。
FC、FDグレードのエンジンオイルを使用しても、減ったように見えるのは煙だけ。排ガス自体がキレイになるわけではありませんし、機械の潤滑に悪影響を与えることもしばしばあるようなエンジンオイル…皆さんなら使いますか?
STIHL では、2-Mixエンジン、STIHL-Injection、M-Tronicといった技術を駆使して、排ガス中の有害成分を減らす工夫をした製品を販売しています。
これらの技術を駆使することで、排ガス中に含まれる油分も減ります。結果的にFBグレードのオイルでも煙も減る傾向にありますので、わざわざ純正以外のFC、FDグレードを使う理由もなくなります。
もちろん、STIHL HPスーパーはFDですが純正エンジンオイルですので、STIHL 製品に適したオイルであることはしっかりと検証されています。
その他
FB、FC、FDグレードでは潤滑性能の良否は判断できないのは分かっていただけましたか?
純正エンジンオイルを使用することで、エンジンオイルに起因するトラブルが減ります。もちろん、保証対象にもなります。
どのメーカーでもそうですが、基本的にメーカーは純正エンジンオイルを使用して製品の開発を行います。純正エンジンオイル以外ではテストはしませんし、したとしてもそれは比較検証のためであって、製品保証のためのテストではありません。したがって、エンジン性能の保証は純正エンジンオイル使用が前提なのです。
例えばホームセンターなどで、チェンソー・刈払機・ヘッジトリマー等のイラストが描かれて「2サイクル25:1〜50:1用FD級」と記載されたエンジンオイルがあれば、イラストにあるすべての2サイクルエンジン機で使用できるオイルだと判断してしまっても仕方ないですよね。
しかし、本当に機械に合うかどうかは使用してみないと分からないのです。調子が良いこともあるでしょう。でも、そのオイルを使用してエンジン焼き付きが起こったらどうしますか?
オイルが原因だとして、オイルメーカーは販売した責任として保証してくれるのでしょうか。また、機械への適合性検証は、どの程度まで行っているのでしょうか?オイルメーカーに問い合わせたらどんな返答があるか、考えてみてください。
まとめ
排ガス規制対応の機械は「排気ガス中の有害成分を減少させるためにいかに少ない燃料で動作させられるか?」が重要になっています。これは同時に冷却や潤滑に利用されるエンジンオイルも少なくなることを意味しており、そのような厳しい条件での性能保証が求められているということです。
実際に機械を設計しているメーカーであれば周知の事実でも、汎用オイルのメーカーはどこまで知っていてオイルに反映しているのでしょうか?その価格で、充分な性能を本当に提供できるのでしょうか?疑問が残ります。
これらのことを考慮すると、たとえ自己責任だとしてもユーザーが安価な汎用オイルを使用するにはリスクがあると思いませんか?
エンジンを良い状態で長く使用するために、純正エンジンオイルを正しく使用いただくのはとても重要なことなのです。